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とえば倫理を選択科目にするといい成績で卒業できるし、いい就職ができるなどということを考えてしまうので、そうすると狭い視野しかもたないような危険性があると思います。
何とか慈悲深い思いやりのある医師や看護婦に育てるように動機づけるにはどうすればいいのでしょうか。医学部や看護学部にはいろいろな世代の教師がいたほうがいいと思うのです。新しいアイデアをもっている元気な若い人、そして中年の先生、そして経験豊かなお年よりの先生というように。
アメリカでは学部によって、また教師によって教え方はたいへん違っています。たとえば学部による違いとしては、アリゾナ州立大学の法学部などを訪れれば、法学部の先生は相手の弱点を突く方法とか、相手と討論して自分がいかに有利に自分の立場を弁護して、相手の弱点を突くとかいったたいへん競争心を駆り立てるような、あるいは時にはたいへん攻撃的な態度や姿勢を学生に教えます。そのほうが優秀な弁護士になるだろうと先生は思っているからです。でも私にいわせれば、もしも争議をおこしている両者に静かに話し合いましょうというような、そういう弁護士に育ってくれれば大きな訴訟などもおこらないですむのではないかと。
また、音楽学部は、ひどく雰囲気が違っていて、たとえばジャズの教室などに行くと、ジャズセッションなどでは、相手が何を弾いているのか、どんなフレーズを弾いているのか、相手のフレーズをよく聞いて、いいな、これを使って少し編曲してみようというように、お互いにお互いの音を聞き合って、楽しくチャレンジしたり応酬したりしていて、お互いに協力してよい音楽をつくろうという共通の目的があります。
心理学部に行くと、心理学部の先生にいいたいのですが、人を分析するのだったら死んでからにしてくれ、分析するのは解剖で十分だといってやりたいと思うことがあります。

 

学部教育でも必要な人道的な処遇

先ほどゴールデン先生がいわれましたが、医学部の学生にあまり虐待を与えてはならないということは実に正しいことだと思います。医学部の学生はたいへんストレスの高いグループで、病気にもなりやすいし、お酒や麻薬に走ったり、社会生活が完全に崩壊してしまったり、健康を損なったりする。グループとしての医師はアメリカでは離婚率が高く、自殺率も高く、いろいろな病気にかかりやすいというデータがあります。自分自身を助けることができない人たちが、どうして他人を助けることができるのだろうかと疑ってしまうことがあるのです。それがどこで始まるのかといいますと、夢をもって希望で胸がいっぱいの学生が医学部に入ってくると、ののしられ、働かされて過労になって、ストレスにさらされ、人間らしい扱いをされない、だからそういったストレスの中ではストレスに満ちた医師や看護婦になっていくのだと思えるからです。
最近、アメリカでたいへん問題になっている事件として、「デビー、もうおしまいだよ」という見出しで記事にもなったのですが、レジデントの医師が宿直のとき急に起こされたら、患者が痛みで苦しんで死にかけていて、当の患者も死にたい、殺してほしいといったために、医師は致死量の薬を処方して看護婦に注射をさせたのです。そのときに、先ほどの見出しにある「デビー、おしまいだよ」という言葉を投げかけて死なせてしまったという事件でした。もちろん医師本人がいけないとは思うのですが、どうしてそうなってしまったかというのは、当人自身が過労で、疲れていて、ストレスでいっぱいで、虐待を受けるような環境の中で働いていたので、患者にそういう扱いをしたのではないかと私は思います。
それからチーム医療というのを考えるのであれば、看護婦、ソーシャルワーカー、医師が教育の現場でもチームとして教育に当たるのがいいのではないかと思います。

 

 

 

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